【三重・津】地形から風を考える【南風】
南西側は吹きそうだけど、南東側は吹かなさそう
昨日は三重県の地形を学びました。
それでは、その地形から、どの向きの風が吹いてくるのか考えてみます。まずは南寄りの風(東南東~西南西の間の風)から。
黒の十字線が交差しているところが三重県津市です。
まず、津市が面している伊勢湾ですが、この湾は南東に向かってひらけています。そのため、東南東~南南東の間の風は遮るものがないので吹き抜けやすいです。
南の風についても、志摩半島は700m級の山があるものの、ある程度は吹いてきそう。
しかし、南南西~西南西の間には山が立ち並びます。特にオレンジ色で塗られている部分は紀伊山地(1500m級の山が多い、最高峰は1915m)で、この方向からの風はそうそう抜けてこないはずです。
図でいうと、オレンジの線が南西からの風で、紀伊山地にぶつかっているため、津では南西の風は吹かなさそうです。南南西の風についてはギリギリ掠っている程度。西南西の風は完全に避けてきているので吹き抜けてきそう。
地形を元に、強く風が吹きそうな風向を考えてきました。それでは、実際の津の過去の気象データを見ての検証結果をご覧ください。ちなみに、7m/s以上を強風としています。
東南東→〈予想〉◎ 〈実際〉◎
南東 →〈予想〉◎ 〈実際〉◎
南南東→〈予想〉◎ 〈実際〉◎
南 →〈予想〉○ 〈実際〉○
南南西→〈予想〉△ 〈実際〉×
南西 →〈予想〉× 〈実際〉×
西南西→〈予想〉○ 〈実際〉△
(◎:強風が多い、○:強風のこともある、△:強風は激レア、×:強風にならない)
予想と概ね一致です。南南東と東南東だけ少しずれました。その理由を少し考察していきます。
西南西:四国の山に遮られる
先ほどの地図をもう少し引いて見ると、西南西の直線状に四国がもろ被りしています。四国は2000m近くの山がいくつもあり、これでは風は入ってこなさそう。しかし、紀伊水道や大阪湾があるので、まだ風の流入経路は残されています。
過去に西南西の強風が吹いた日の気圧配置を見たところ、北側からの風が大阪湾から西南西の風として入ってきたようです。
南南西:微妙に高い山と被っている
南南西の直線状にある場所を詳しく調べてみると、大台ヶ原山という標高1695mの山がありました。これはさすがに風が通り抜けることはできなさそうです。
地形から風を考える【三重・津】
天気予報で一番気になるのは、いま自分たちがいるところではどのような天気になり、風がどのくらい吹くのか、ということです(それらはまず広範囲の天気を予想してから、狭い範囲に落とし込んで考えていくので、どちらも大事ではある)。
三重県津市を例に、どのような風が吹くのか、地形から考えていきます。
三重県は南北に風が抜けやすい
まず初めに、三重県の地形を整理します。
奈良県との県境に1200~1600m級の高い山があります。北部や志摩半島にかけても700~1000m級の山が立ち並んでいます。そのため、風は高い山を避けるようにして流れていき、南北に風が抜けやすくなっています。
津の観測所は伊勢湾に面した伊勢平野に位置しており、市街地と似た条件の場所にあるといえます。津での観測データが、街の天気と近いものになっていると考えてよさそうです。
それでは、2018年3月の津の気象データ(出典 : 気象庁HP)を見ていきます。
風が強い日には色を付けています。黄緑が北西の風、緑が南東の風です。見事に青い矢印の通りに風が吹いています。
黄緑の中に「風向:西」の日があるのですが、これは、観測所の西側の山々から平野に向かって風が抜けてきたために西風を観測しているものと考えられます。
風というのは、障害物があったら避けて回り込んでいくのと同様に、流れやすいところ(この場合、伊勢湾になります)を通ろうとします。700m~1000mもの山があるところを通っていくよりも、遮るものがない海を通り抜ける方がずっとスムーズなのです。
そのため、西側の山から平野に向かって風が吹き抜けていったのでしょう。
風が弱い日には他の要因の影響により、風向はばらついています。
低気圧の成長
今日の天気図を見ていて気になったことが1つ。
太平洋の高気圧の左側の等圧線がへこんでいます。
15時の天気図ではその辺りに低気圧が描かれました。
18時の天気図では等圧線の形が大きく変わり、前線を持つ低気圧とこのまま合体しそうな雰囲気。
なぜ新しく低気圧ができたのか
まず、12時時点での風の流れを確認します。
実はこの時点で、赤色の部分において反時計回りに風が収束している(吹き込んでいる)地点がありました。
天気図には描かれていないだけで、実質上の低気圧です。関東地方の雨雲もこの低気圧によるものでした。
実況天気図に描かれるもの=超重要
それではなぜ実況天気図にはこの低気圧は描かれなかったのか?
実際のところはわかりませんが、すべての低気圧や高気圧、前線、等圧線を描くことは不可能だから、ということだと思われます。
天気図に描かれないような小さな低気圧や高気圧はたくさんあって、それゆえ風は複雑怪奇な挙動をします。
しかし、天気図に描かれるのは、その日の天気の全体像を語るにあたっての必要最低限なものだけ。
裏を返すと、わざわざ天気図に描かれているものは非常に重要であるということです。
今日の天気図をもう一度見てみてください。あまり見慣れない点線が描かれています。
天気図において、等圧線は4hPaおきに描かれるのですが、2hPaおきに線を引きたい場合に点線が用いられます。1012hPaと1016hPaとの間にもう1本、1014hPaの等圧線をどうしても引きたかったということです。
これは、等圧線が変な形をしていて、そのために風が反時計回りに吹き込む流れが発生しやすくなっているよ、という天気図作成者の主張なのではないかな、と思いました。
そして、今回は見事、小さな低気圧が天気図に乗るほどの大物に成長したようです。
*天気図は気象庁HPより引用
よくわかる天気予報No.3【南岸低気圧】
東京都心の正午の気温は5.7℃でした。この時間の気温としては2月15日(3.0℃)以来の低さで、今日の同時刻の北海道札幌市(6.3℃)よりも低くなっています。*1
本日3月3日は東京マラソンが開催されました。東京マラソンといえば市民ランナーに大変人気のある大会のイメージがあるのですが、この気温の低さに加えて雨も降りました。
体調を崩して棄権。せっかくの大会だから完走したい、と無理してしまって低体温症。
なんてことになっていないか心配です。
南岸低気圧がポイント
さて、この寒さの原因は南岸低気圧。本州の南側を通過する低気圧のことです。
それでは、札幌より東京の方が寒かったという12時の実況天気図を見てみます。
札幌にも東京にも同じ高気圧からの空気が流れてきていたようです。札幌にとっては暖気、東京にとっては寒気です。この矢印は、
高気圧から時計回りに吹き出し、低気圧に反時計回りに吹き込む。
風は等圧線に沿うように吹く(コリオリの力により、ぴったり沿うわけではない)。
の2点を意識して描きました。
このように、低気圧の北側には寒気が、南側には暖気が存在するため、本州の南側を低気圧が通過する際は本州各地の気温が低くなります。
PM2.5を学ぶ
こちらの写真は、2月1日(金)12時にひまわり8号によって撮影された可視画像です。
大陸から日本海に向かって薄いベールのようなものが広がっています。冬型気圧配置の時に日本海には寒気に伴う雲がよく発生しますが、今回の場合、発生源が大陸にあるため、冬型時の雲とも違います。*1
1日にPM2.5の飛来が報道され、本日も引き続きPM2.5の濃度が高い状況となっています。札幌では通常の20倍にも達したとのことです。
道によると、原因は現段階で特定できていないものの、ロシアや中国などで森林火災が起きると高くなる傾向があるという。道や札幌市は「呼吸器に疾患のある人や高齢者、子供は外出時にマスクを着用する、家の窓の開閉を最小限にするなどの対策を」と呼びかけている。*2
そもそもPM2.5とは
粒子状物質(Particulate Matter)の粒径が2.5μmより小さいものをPM2.5と言います。粒子状物質というのは、車から排出されるガスや火事で生じたすすが大気汚染物質として扱われる時の呼び名です。
粒径が10μmより小さいものを呼ぶPM10というものもあり、大気汚染の度合いを測る指標として使われていました。近年では、PM2.5の方が人体への影響が大きいことから、こちらに関心が集まっています。
PM2.5から身を守る
PM2.5の濃度が非常に高いときには、屋外での激しい活動や長時間にわたり屋外にいることを極力控えるように、注意喚起が行われます。
そうは言っても、日常生活を送る上で外出は避けられない。予防策を講じていきます。
PM2.5と言われてもここ数年で耳にするようになったものだからいまいちピンとこない。それでは身近なものを持ち出してみます。
例えば、インフルエンザウイルスは直径0.1μmといわれています。つまり、PM2.5よりも小さい。マスクをすれば飛沫感染は防げる(それでも感染するのは接触感染が原因)わけですから、PM2.5の体内への侵入も阻止できます。
スギ花粉は直径20μm。家に入る前に衣服をはらうことで、花粉を家に持ち込むことを防ぐことはできますが、それより小さいPM2.5はどうでしょう。やらないよりはマシかな。
また、空気清浄機はHEPAフィルターを搭載しているものであればPM2.5も取り除いてくれるようです。黄砂も直径4μmとPM2.5よりも大きいので、ばっちりでしょう。
危険性を確認
ちなみに、赤血球の大きさは7μmとのことで、PM2.5よりも大きい。そのため、PM2.5が体内に入ってしまうと、赤血球に運ばれて全身どこへでも侵入してきてしまいます。
中国ではPM2.5の大気汚染による死亡の報告も出ており、なかなか侮れません。
さすがに中国ほどの濃度とはいきませんが、注意喚起の基準値を超えている地域もあります。特に、呼吸器系に疾患を持つ方や呼吸器系が弱い方は気を付けてお過ごしください。
今日は冷え込みますね。って言う日【シベリア高気圧】
冬の特に寒い日は、「大陸の寒気が張り出してきています」なんて言いますね。
実はその寒気、普段目にする天気図からでも見ることができるのです。多少のずれはありますが、どの地域が冷え込むかくらいは確認できます。完全に我流なので参考までに。
実際に見てみる
それでは記憶に新しい、年末大寒波の時の天気図を例に見ていきます。
2018年12月29日9時の実況天気図です。この日は東京で今季初の氷点下を記録した、冷え込みの厳しい1日でした。
寒気の範囲は青い部分です。寒気の範囲は、大陸側に閉じている等圧線の内側としています。実際の気温と照らし合わせても大きくずれていたことはないので、とりあえずはこれで良し。
これを見ると完全に西日本、東日本に寒気がかかってきています。北日本は寒気の範囲から外れていますが、だからといって北海道より東京の方が寒いのか?というと、答えは当然ながら否。
気温のベースを決める要素はここからは拾えないです。別の情報を仕入れないとわかりません。それでは、この寒気の範囲は何を示すのか。
ベースではないということは、サブ要素になるわけですが、これは気温のブレを表しています。つまり、いつもと比べて冷え込むか否か、がわかる。
2018年12月、東京の観測所での平均最低気温は4.7℃でした。しかし、29日の朝方は非常に冷え込み、-0.7℃を観測。これは12月中1番の最低気温です。
上の天気図の寒気の範囲から読み取れるのは、この冷え込みになります。
最近はもうすっかり暖かくなってきました。もし寒さを感じる日があったら、寒気の範囲をチェックしてみてください。
*天気図は気象庁の過去データからの引用
フェーン現象に疑問を感じたことない?【気象予報士への道】
フェーン現象とは…
風が山にぶつかると、山の斜面に沿うように空気が上昇し、暖かく乾いた空気になって山を下ってくる。そのため、下降気流が吹く地域では気温が上昇し、乾燥するため火事が発生しやすくなる。また、空気が上昇する際には雲が発生し、山の手前の地域では雨が降ることもある。
フェーン現象の矛盾:気温に差異が生じている
冒頭部分のような説明で習ったのではないでしょうか。言ってることは理にかなっているし、よくわかる。しかし問題は、その説明に用いられるイラストです。
このイラストに矛盾を感じませんか?フェーン現象の説明に使われがちな画像ですが、私はこれを初めて見た時、めちゃくちゃ引っかかってました。
なぜ、山を越える前より越えた後の方が気温が高いのか。
確かに、風下では暖かく乾いた空気が吹き下ろしてくる、とは習ったけれど、風上より気温が高くなる理由までは説明されていない。なぜその理由を教えてくれないのか。
空気が対流する時には断熱変化をしている
それは、説明するには小難しい専門用語(高校物理の知識があれば理解できます)を持ち出してこなければならないから。特に、中学でこれを教える時点においてはそこまで言及するべきではない、ということではないかな、と思います。
それでは軽く専門用語の説明も交えながら、気温上昇の理由をまとめておきます。いくつか言い換えながら説明するので、自分が一番理解しやすい部分を探して読み進めてください。
空気が上下方向に移動する(これを対流といいます)際には断熱変化をしています。断熱変化というのは、空気が外部と熱のやり取りをせずに体積変化をすることをいいます(これは熱力学第1法則 ΔQ=ΔW+ΔU より説明されます)。
つまり、空気が上昇すると周囲の気圧が下がるため、空気は膨張します(断熱膨張)。そのため、空気の気温が下がります(断熱冷却)。
反対に、空気が下降すると周囲の気圧が上がるため、空気は収縮します(断熱圧縮)。そのため、空気の気温が上がります(断熱昇温)。
ちなみに、山の手前で雲が発生して雨が降ることは、空気が上昇すると気温が下がることから説明できます。気温が下がると飽和水蒸気量が小さくなって、あぶれた分の水蒸気が凝結して水になり、雲ができる。ということです。
断熱変化の中でも気温の変化率が異なる
さて、それでは本題へ。
空気が上昇すると気温は下がる。下降すると気温は上がる。
とのことでしたが、雲が発生する時の気温の変化率だけ、他の場合と異なることがフェーン現象の矛盾を生んでいます。
何かというと、フェーン現象では空気の上昇中に雲ができますね。
空気が上昇するということは気温は低下していきます。しかし、雲ができる。すなわち、水蒸気が水になる(凝結)。凝結する際には凝結熱が発生します。
この熱をポイっとどこかに捨てることはできません。空気が上昇下降(対流)する時は断熱変化をするから。外部と熱のやり取りをしない、というのがここで効いてきます。
そのため、この熱は空気の中に加わることになるので、空気の上昇による気温の低下を妨げます。そうして気温の変化率が他と変わってくるのです。では数字に落とし込むとどうなるなのか。
雲が発生している時の気温変化率は0.5℃/100m。100mの標高差で0.5℃変化します(これを湿潤断熱減率といいます)。
雲が発生していない、普通の場合だと1℃/100m。100mの標高差で1℃変化します(これを乾燥断熱減率といいます)。
整合性がとれました
風上から順を追って計算していきます。この例では、上昇気流が生じて標高1000m以上で雲が発生しています。
①上昇気流(標高0→1000m):乾燥断熱減率1℃ / 100m
30[℃] - (1000[m] / 100[m]) × 1[℃] = 20[℃]
②上昇気流(標高1000m→2000m):雲発生、湿潤断熱減率0.5℃ / 100m
20[℃] - (1000[m] / 100[m]) × 0.5[℃] = 15[℃]
③下降気流(標高2000m~0m):乾燥断熱減率1℃/100m
15[℃] + (2000[m] / 100[m]) × 1[℃] = 35[℃]
ということで、風上と風下の間の気温の違いを説明できました。すっきり!