フェーン現象に疑問を感じたことない?【気象予報士への道】
フェーン現象とは…
風が山にぶつかると、山の斜面に沿うように空気が上昇し、暖かく乾いた空気になって山を下ってくる。そのため、下降気流が吹く地域では気温が上昇し、乾燥するため火事が発生しやすくなる。また、空気が上昇する際には雲が発生し、山の手前の地域では雨が降ることもある。
フェーン現象の矛盾:気温に差異が生じている
冒頭部分のような説明で習ったのではないでしょうか。言ってることは理にかなっているし、よくわかる。しかし問題は、その説明に用いられるイラストです。
このイラストに矛盾を感じませんか?フェーン現象の説明に使われがちな画像ですが、私はこれを初めて見た時、めちゃくちゃ引っかかってました。
なぜ、山を越える前より越えた後の方が気温が高いのか。
確かに、風下では暖かく乾いた空気が吹き下ろしてくる、とは習ったけれど、風上より気温が高くなる理由までは説明されていない。なぜその理由を教えてくれないのか。
空気が対流する時には断熱変化をしている
それは、説明するには小難しい専門用語(高校物理の知識があれば理解できます)を持ち出してこなければならないから。特に、中学でこれを教える時点においてはそこまで言及するべきではない、ということではないかな、と思います。
それでは軽く専門用語の説明も交えながら、気温上昇の理由をまとめておきます。いくつか言い換えながら説明するので、自分が一番理解しやすい部分を探して読み進めてください。
空気が上下方向に移動する(これを対流といいます)際には断熱変化をしています。断熱変化というのは、空気が外部と熱のやり取りをせずに体積変化をすることをいいます(これは熱力学第1法則 ΔQ=ΔW+ΔU より説明されます)。
つまり、空気が上昇すると周囲の気圧が下がるため、空気は膨張します(断熱膨張)。そのため、空気の気温が下がります(断熱冷却)。
反対に、空気が下降すると周囲の気圧が上がるため、空気は収縮します(断熱圧縮)。そのため、空気の気温が上がります(断熱昇温)。
ちなみに、山の手前で雲が発生して雨が降ることは、空気が上昇すると気温が下がることから説明できます。気温が下がると飽和水蒸気量が小さくなって、あぶれた分の水蒸気が凝結して水になり、雲ができる。ということです。
断熱変化の中でも気温の変化率が異なる
さて、それでは本題へ。
空気が上昇すると気温は下がる。下降すると気温は上がる。
とのことでしたが、雲が発生する時の気温の変化率だけ、他の場合と異なることがフェーン現象の矛盾を生んでいます。
何かというと、フェーン現象では空気の上昇中に雲ができますね。
空気が上昇するということは気温は低下していきます。しかし、雲ができる。すなわち、水蒸気が水になる(凝結)。凝結する際には凝結熱が発生します。
この熱をポイっとどこかに捨てることはできません。空気が上昇下降(対流)する時は断熱変化をするから。外部と熱のやり取りをしない、というのがここで効いてきます。
そのため、この熱は空気の中に加わることになるので、空気の上昇による気温の低下を妨げます。そうして気温の変化率が他と変わってくるのです。では数字に落とし込むとどうなるなのか。
雲が発生している時の気温変化率は0.5℃/100m。100mの標高差で0.5℃変化します(これを湿潤断熱減率といいます)。
雲が発生していない、普通の場合だと1℃/100m。100mの標高差で1℃変化します(これを乾燥断熱減率といいます)。
整合性がとれました
風上から順を追って計算していきます。この例では、上昇気流が生じて標高1000m以上で雲が発生しています。
①上昇気流(標高0→1000m):乾燥断熱減率1℃ / 100m
30[℃] - (1000[m] / 100[m]) × 1[℃] = 20[℃]
②上昇気流(標高1000m→2000m):雲発生、湿潤断熱減率0.5℃ / 100m
20[℃] - (1000[m] / 100[m]) × 0.5[℃] = 15[℃]
③下降気流(標高2000m~0m):乾燥断熱減率1℃/100m
15[℃] + (2000[m] / 100[m]) × 1[℃] = 35[℃]
ということで、風上と風下の間の気温の違いを説明できました。すっきり!